冲方丁『はなとゆめ』

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―― 春はあけぼの。やうやう白くなりゆく ――

このフレーズに聞き覚えのある人は多いと思う。これは枕草子の序段。枕草子を読んだことがなくても、著者は平安時代の女性、清少納言であることを知っている人は多いだろう。

冲方丁の『はなとゆめ』はその清少納言を描いた話。
歌の才あふれる父のもとに生まれた彼女。
当時の帝、一条帝の后である中宮定子に仕えることになるが、最初はその雰囲気に馴染めずにいた。父親の歌の才能を受け継ぎはしなかったもの、豊富な知識や機転を活かして定子に認められていく。
変わり、広がっていく彼女の世界。しかし、そんな中裏では貴族たちの権謀術数による権力闘争が行われていた。
目まぐるしく変化する宮廷の状況と、望む望まないにかかわらず権力闘争に巻き込まれていく中宮定子。清少納言はそんな主の状況をどういった思いで見ていたのか。そして、枕草子はどのように生み出されたのか。ということが清少納言の視点から語られている。そのため、登場人物の多くが地位や教養のあるものであり、やや浮世離れしている感はある。

正直、読み始めた時は「読みにくい」と思ってしまった。
というのも、あまり馴染みのない漢字が多く使われており、読んでいる途中に(何て読むんだったっけ)となる場面が非常に多い。文化的な知識もなかったので状況を想像できない場面もあった。ただ、読み進めていく内に段々と慣れて読めるようになっていくる。学生時代に聞いたことがあるような名前の人物も多く登場し、中盤以降は展開が目まぐるしく変化する。そうなると今度は続きが気になって止まらない。
歴史をもとに描かれているのだが、僕は歴史には詳しくないので、どこまで史実に則っているのかは分からない。ただ、ある程度の展開は読めてしまう。というか結末は歴史と同じに決まっているのだが、それが客観的にではなく清少納言の視点から描かれているので教科書で学んだこととは違う、新鮮な面白さがあった。

また、作中にはたくさんの歌が登場する。学生時代、和歌を勉強させられた時は全く興味なかったし、百人一首も2句ぐらいしか暗記していなかったのだけれど、今は「風流だな」と思ってしまう。自分もそこそこ成長していると思ってもいいのだろうか。

冲方丁が歴史上の人物を描くのは、『天地明察』の渋川春海、『光圀伝』の水戸光圀に続いて3作目。
京極夏彦の書楼弔堂シリーズにも実在した歴史上の人物が多くでてくるのだけれど、実在の人物を題材した物語はやはり面白い。問題は全てが史実に基づいたものではないということをきちんと理解しておけるかどうか。ある意味同人誌と同じような楽しみ方なのかもしれない。